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FLOWER GARDEN 2

FLOWER GARDEN 2

■ SECRET

★★★フラワーガーデン外伝★★★

第1話 恋人のキス


ハウザーは僕の天敵だ。
ヤツは塀をよじ登り、僕が屋敷に忍び込むのを、毎夜、その小屋の中から待ち構えている。
そして、遠目に見て僕がエドワード・マッカーシーだと判ると、尻尾を振って駆け寄り、噛み付く。


「ダメよ!ハウザー!!」


2歳年上のオリビア。
流れるハチミツのような金髪に、翡翠のように澄んだ瞳の僕の美しい恋人。

僕達は、ハウザーに賄賂のジャーキーを与えると、コンサバトリーに駆け込んだ。
コンサバトリーのベンチに息を切らしながら座ると、僕はすぐさま彼女の唇に愛しい想いを忍ばせた。

「エドワード……お父様に見つかっちゃったかしら?」
「大丈夫だよ」
「でも……見つかったら……」
「見つからないよ。ああ……。お願いだ。オリビア……。今はこのキス以外のことに心を奪われないで……」

僕達は再びキスを重ねた。


嘘みたいだ。
こんな風になれるなんて……
僕はオリビアにキスをしながら、しみじみと彼女を抱き締めた。



オリビアと僕は、小さな頃からの幼なじみだ。
僕はいつも年上の美しいオリビアの後を追い駆けて来た。
そして、ずっとそのまま、彼女の後ろを追い駆けていくものだと思っていた。


だけど、この夏。僕はオリビアに告白した。
僕はこの背がオリビアを追い越したら、彼女に告白しようと思っていた。
告白できるまで、13年も掛かってしまったのだけど。


オリビアは生まれたばかりの僕に初めてキスをした女の子だったと、母さんに聞いた。
だから、キスはずっとしていた。
お互いの頬へのキスだけは。

だけど、今年からは違う。
このキスは恋人達のキスなのだと、目を瞑りキスをしながら、熱い想いに眩暈がしそうだった。





第2話 年下の恋人


僕とオリビアが付き合うようになって、3ヶ月経った時だったと思う。

アメフトの花形スター、ジェフリー・レイモンドがオリビアに告白したと言う噂を聞いた。

ジェフリーはオリビアよりも2歳年下の僕とは違い、オリビアよりも2歳年上。

片やもやし、片やスターだ。

「バカね。エドワード・マッカーシー!私が誰を愛するのかは、周りじゃなくて私が決めるのよ!」

オリビアはくすくすと笑いながら、そっと優しいキスをしてくれた。

だけど、僕は自信が無かった。

男として、オリビアの愛を勝ち取っていると言う「自信がない」こともさることながら、オリビアに告白しておいて、今更、こんなことを言うのは間違っているのかもしれないけど、彼女を本当に愛しているのかも自信がなかった。


今まで恋をした事がなかった。
いや、それだけじゃない。

愛を知らなさ過ぎた。

だから、飢えた。
だから、告白した。

そして、そのことをオリビアは知っていたのかもしれない。
今にして思えば、そう思うのだけど。

学校から帰り、無言のまま、部屋の扉を開けると、机の上にバッグを放った。

「あら?!もう帰ってきたの?」

母が煙草を燻らせながらしどけない格好で扉に寄り掛かっていた。

「ただいま。お母様。今日はお早いお帰りですね」
「まぁねぇ。取締役って言っても、名前だけだし……」

僕は鞄の中から今日使った教材を取り出し、明日使う教材に入れ替え始めた。

「あ。そうそう。今日、お父様と離婚したから。私は、来週にでも、この家を出て行くわ。どちらに付いて行くかは、お前が決めてね」


母はついでの連絡でもするかのように、実にあっけらかんと離婚の報告をした。





第3話 離婚


13年間いがみ合った末、僕の両親は念願の離婚を果たした。
お互いに弁護士を立て、顔を合わせることも無く、最後はあっけないくらいあっけなく離婚した。


両親は文書を交わし、その中でお互いが引き取るべき家財や不動産についての要望が書き出されていた。
が、そのどちらにも僕の名前は無かった。


「愛し合って出来た子供じゃない」

両親の夜毎繰り返される言い争いの中心に僕の名前が度々出た。


それが聞きたくなくて、僕は耳を塞ぎ、歌を歌った。


人を好きになるのなんて……愛なんて嘘だと、知った。

そして、僕は何も信じられなくなった。
両親も、それから僕自身の感情も。

感情を押し殺し、上辺だけの友情、上辺だけの付き合いをした。

傷付けられないようにしたいなら、傷付けないだけの距離を取る事を学んだ。



だけど、心はいつもドクドクと血を流したまま、愛情に飢えていた事に、あの日初めて僕は気付いてしまったんだ。




第4話 オリビアとの別れ


僕は笑えない日はオリビアと会う事を止めた。
せめて、オリビアと会う時だけは笑って楽しいひと時を持ちたかったからだ。


だから、両親の離婚の話がシビアになり出した頃、僕はオリビアと距離を置いた。
……会わないようにしていた。


それだけに、彼女と会う事をやんわりと断わり始めてから3ヶ月が経った頃、彼女が僕の通う中学校に乗り込んできた時は、心臓が飛び出るくらい驚いた。


彼女は、食堂で僕の顔を見るなり、こう言った。

「別れましょう!エドワード!」

僕はいきなり不意を打たれて、ただポカンと口を開けて、彼女を見上げた。

「返事は?!イエス or ノー? はっきりして!」

突然、突き付けられた彼女の質問に、僕は思わず「イエス」と言ってしまった。


オリビアは、大きく掌を上に挙げると、僕の頬を思いっきり張り倒した。


「……愛してるのに!」


僕は頬を押さえ、駆け去る彼女の後姿をただ呆然と見送った。


呆気ない幕切れに力が抜け、僕はそのまま席に座ると、残りのデザートを食べようとスプーンを手にした。

最後まで残していた甘いはずのヨーグルトは、苦い塩の味がした。


気付けば、僕の涙は止め処もなく頬を伝い落ちて、白いヨーグルトの表面をポタポタと打っていた。




第5話 意地悪な運命


オリビアと僕が別れて半年後のことだった。
オリビアがジェフリー・レイモンドと付き合っているという噂が僕の耳に入った。

そして、僕も1度だけ見た。
オリビアが、彼と一緒に歩いているところを……




僕は、もう少し強い男になりたくて、夏のアメリカ横断キャンプの半月コースに申し込んだ。

オリビアを忘れて、無心に自転車のペダルを漕いで走りたかった。


だけど、運命はどこまでも僕に意地悪だった。

そのキャンプに、オリビアがいた。


向こうも直ぐ僕に気付いたらしく、驚いて視線を合わすまいと、目を逸らした。
僕は……逸らすのを忘れていた。


更に運が悪い事に、僕達は一緒のグループで行動を一緒にする事が決まった。

「ナイフあるかしら……エ……マッカーシー」
「どうぞ。オ……ヘイワーズ嬢」

こんな風に万事、ヨソヨソしかった。


 



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